DMCCファウンデーション制度が始動|ドバイで資産承継・ファミリーオフィスを設計する新たな選択肢
2026年9月23日、DMCCがFoundations Regulations(ファウンデーション規則)を正式制定しました。富裕層・ファミリーオフィス・オーナー経営者がドバイを拠点に資産の長期保有・事業承継・ガバナンスを設計できる新たな法的枠組みです。既存のSPV・HoldCoとの使い分け、日本居住者が押さえるべき税務論点を整理します。
DMCCファウンデーションとは
2026年9月23日、ドバイ最大級のフリーゾーンであるDMCC(Dubai Multi Commodities Centre)が「Foundations Regulations(ファウンデーション規則)」を正式に制定しました。6月に予告されていた新制度で、富裕層・ファミリーオフィス・オーナー経営者が、ドバイを拠点に資産の長期保有・事業承継・ガバナンスを設計できる新たな法的枠組みです。
- DMCCが2026年9月23日にファウンデーション規則を正式制定。数週間以内にガイダンスとデジタルオンボーディングを公開予定
- ファウンデーションは設立者・受益者等から独立した法人格を持ち、資産承継・長期保有・資産保全に活用できる
- 設立者による権限留保(投資判断・任命・受益者指定など)が可能で、初期拠出資産はUSD 100から
- 2025年導入のSPV・HoldCoライセンスに続く選択肢。DMCCは「資産を構築・保全・運用する総合プラットフォーム」へ
- 制度内容はDIFC・ADGM・RAK ICCとほぼ同水準。違いは「事業会社・HoldCo・財団をDMCC一か所で組める」エコシステム
- 日本居住者の場合、日本側の税務(CFC税制・相続税等)の検討が不可欠
ファウンデーション(財団)は、設立者が拠出した資産を、定められた目的とガバナンスに従って保有・管理するための法的器です。DMCCの新制度では、DMCCファウンデーションは設立者(Founder)、評議員(Councillors)、ガーディアン(Guardian)、受益者(Beneficiaries)のいずれからも独立した法人格として設立されます。
DMCCは本制度を、広範な市場協議と主要な海外ファウンデーション制度との比較検討を経て策定したとしており、対象として富裕層個人、ファミリーオフィス、起業家、国際的なプライベートウェルス顧客を明示しています。
制度の主なポイント
① 独立した法人格による資産保有
資産はファウンデーション自体が保有するため、特定個人の状況に左右されにくい形で、長期保有・承継・世代をまたぐ継続性を確保する仕組みとして設計されています。
② 柔軟なガバナンス設計と権限留保
設立者は、受益者、資産の管理・分配方法、意思決定の仕組みを規定できます。さらに、投資判断、役員の任命、受益者に関する権限などを設立者本人や指定者に留保することも可能です。「承継の枠組みは作りたいが、当面の意思決定は自分で握っておきたい」というオーナー経営者のニーズに応える設計です。
③ 初期資産USD 100から設立可能
設立時の拠出資産はUSD 100からとされており(RAK ICCファウンデーションと同水準)、まず器を用意し、その後に資産を段階的に移していくといった設計も視野に入ります。なお、ライセンス費用・年間費用などの詳細は、今後公表されるガイダンスで確認が必要です。
④ デジタルオンボーディングは「数週間以内」
DMCCは、設立・運営に関するガイダンスと、簡素化されたデジタルオンボーディングを今後数週間以内に導入するとしています。現時点ではDMCC公式サイトで関心登録(Register your interest)を受け付けています。登録フォームでは、氏名・連絡先・国籍・希望言語に加え、設立目的の簡単な説明が求められます。現時点で公式ページに掲載されているのは制度の概要のみで、費用や必要書類はまだ公表されていません。
SPV・HoldCo・ファウンデーションの使い分け
DMCCは2025年にSPV(特別目的会社)とHoldCo(持株会社)のライセンスを導入しており、今回のファウンデーションはそれに続く3つ目のストラクチャリング手段です。目的に応じた使い分けのイメージは以下のとおりです。
| 器 | 主な目的 | 想定される活用例 |
|---|---|---|
| SPV | 特定の取引・資産・プロジェクトを切り出して保有 | 個別投資案件、不動産・知財の保有、共同投資 |
| HoldCo | グループ会社の株式保有・統括 | GCC・中東アフリカ事業の統括持株会社、M&A後の受け皿 |
| Foundation | 長期的な資産保有・承継・ガバナンス | 事業承継、ファミリー資産の一元管理、世代をまたぐ資産保全 |
上表はBiz Easyによる一般的な整理です。実際の設計は目的・資産の種類・関係者の居住国によって異なります。
たとえば「ファウンデーションがHoldCoの株式を保有し、HoldCoが事業会社・SPVを保有する」といった多層構造も考えられます。持株会社の活用についてはDMCCホールディングカンパニー解説もあわせてご覧ください。
DIFC・ADGM・RAK ICCとの違い
UAEには既に、DIFC(2018年)、ADGM(2017年)、RAK ICC(2019年、2025年改正)のファウンデーション制度があります。独立した法人格、設立者の権限留保といった基本機能は各制度とも共通しており、制度単体で見るとDMCCは「後発の同水準の制度」です。
| 項目 | DIFC | ADGM | RAK ICC | DMCC(新設) |
|---|---|---|---|---|
| 根拠法 | 2018年 財団法 | 2017年 規則 | 2019年 規則(2025年改正) | 2026年 規則 |
| 最低資産 | 規定なし | 規定なし | USD 100 | USD 100 |
| 紛争解決 | DIFC裁判所(英米法系) | ADGM裁判所(英米法系) | DIFCまたはADGM裁判所を選択 | 詳細未公表 |
| 強み | 金融センター・ドバイ本土不動産の保有 | 金融センター・DLT財団制度 | 低コスト・資産保護規定 | 事業会社・HoldCo・SPVとの一体設計 |
出典:RAK ICC公式FAQ、各制度の法律事務所解説、DMCC公式発表。DMCCの評議員要件・開示範囲等は今後公表されるガイダンスで要確認。
DMCCならではの価値は「エコシステム」
- ワンストップの多層構造:Foundation → HoldCo → 事業会社・SPVを、同一フリーゾーン内で組成できる
- 実業との距離:26,000社超の加盟企業、貴金属・コモディティ・AI・Web3などの産業クラスターの中に資産管理の器を置ける
- ウェルス支援機能:DMCC Wealth Hub・DMCC FinXとの連携
DIFC・ADGMは英米法系の独自裁判所を持つ点が国際的な資産家に評価されています。DMCCの紛争解決の枠組みは規則本文・ガイダンスで確認が必要です。既にDMCCで事業を行っている、またはこれから行うオーナーが、承継の仕組みまでDMCCで完結させたい場合に、最も合理的な選択肢になると考えます。
想定される活用シーン
- オーナー経営者の事業承継:ドバイ・UAEで築いた事業持分を、後継者への承継ルールとあわせて一つの器に集約
- ファミリーオフィスの基盤:DMCC Wealth HubやDMCC FinXといったエコシステムと組み合わせ、資産管理・投資の拠点をドバイに構築
- 国際分散されたファミリー資産の整理:家族が複数国に居住するケースで、ガバナンスと分配ルールを明文化
日本居住者が検討する際の注意点
ファウンデーションはUAE側の制度として柔軟性が高い一方、設立者・受益者が日本居住者である場合、日本の税務上の取扱いを別途検討する必要があります。特に以下は事前確認が欠かせません。
外国子会社合算税制(CFC税制):ファウンデーションやその配下の会社が日本の合算課税の対象となるかどうか/相続税・贈与税:資産の拠出や受益者への分配が、日本の相続税・贈与税の課税対象となるかどうか/国外財産調書等の申告義務:日本での報告義務の有無。この3点はいずれも事前確認が必須です。
外国のファウンデーションは日本法上に完全に対応する類型がなく、日本側で「法人」「信託類似」のいずれとして扱われるかにより課税関係が大きく変わり得ます。DMCCファウンデーションは新設制度のため、日本での取扱いに関する先例はまだ蓄積されていません。UAE側の設計と日本側の税務を必ずセットで検討し、日本の税理士・弁護士と連携して進めることをお勧めします。
なお、UAE側の法人税(QFZP要件など)との関係については、DMCC・QFZP税務ガイドで解説しています。
今すぐ準備しておくべきこと
正式な申請受付は数週間以内の見込みです。制度開始直後から動けるよう、以下を先に整理しておくことをお勧めします。
- 1目的の明確化:承継、資産保全、投資拠点化のうち、何を最優先にするか
- 2対象資産の棚卸し:UAE法人株式、海外法人株式、金融資産、不動産など、移す資産と時期
- 3関係者の整理:設立者・評議員・ガーディアン・受益者を誰にするか、留保する権限は何か
- 4日本側税務の事前検討:居住者・非居住者の区分と、想定される課税関係
- 5既存ストラクチャーとの整合:既にお持ちのDMCC法人・HoldCo・他フリーゾーン法人との関係
DMCCは2026年9月23日、資産承継・ファミリーオフィス向けの新たな法的枠組みとなるFoundations Regulationsを正式制定しました。制度内容自体はDIFC・ADGM・RAK ICCと同水準ですが、事業会社・HoldCo・SPV・財団を単一フリーゾーン内で組成できるエコシステムがDMCCならではの価値です。日本居住者が関与する場合は、UAE側の設計と日本側の税務(CFC税制・相続税等)を必ずセットで検討する必要があります。正式な申請受付開始に備え、目的・対象資産・関係者の整理を今のうちに進めることを推奨します。
