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フィージビリティスタディとは|目的・進め方・費用・市場調査との違いを実務から解説

フィージビリティスタディ(Feasibility Study、略称FS)は、新規事業や海外進出を「本当にやるべきか、やれるか、どうやるか」を事前に検証する調査です。本記事では、FSの定義と目的、評価の6つの観点、進め方、費用・期間の考え方、市場調査・PoCとの違い、そして海外進出で外せない論点を、200社以上の進出支援に携わってきた実務の視点から整理します。

Region
Global / Middle East & Africa
Topic
戦略・リサーチ
Reading Time
12 min
Updated
Oct 2026
Key Takeaways
この記事の結論
  1. フィージビリティスタディ(FS)は、新規事業や海外進出を「やるべきか・やれるか・どうやるか」の3点で投資実行前に検証する調査である。
  2. 海外進出のFSは、市場性・事業性・法規制・財務・オペレーション・リスクの6つの観点で評価し、1カ国・1業種なら4〜10週で完了する。
  3. 市場調査だけでは進出の可否は判断できない。法規制・参入要件・現地オペレーションは、現地の一次情報をもとに評価する必要がある。

フィージビリティスタディとは

フィージビリティスタディ(Feasibility Study)とは、計画している事業・投資・プロジェクトが「実現可能か」「採算が合うか」「どの進め方が最適か」を、着手前に多角的に検証する調査のことです。日本語では「実行可能性調査」「事業化可能性調査」「企業化調査」などと訳され、実務では「FS(エフエス)」と略して呼ばれます。

語源は英語の feasible(実行可能な)で、Feasibility は「実現可能性」を意味します。もともとはプラント建設や公共事業の投資判断で使われてきた手法ですが、現在は新規事業の立ち上げ、海外進出、M&A、設備投資など、まとまった資金と時間を投じる判断の前に広く用いられています。

FSの本質は「調べること」ではなく「決めるための材料を揃えること」です。調査結果が「進出すべきでない」という結論になることも珍しくなく、その場合でもFSは失敗ではありません。むしろ、数億円の投資を実行する前に撤退判断ができたこと自体が、FSの価値です。

  • 日本語訳は「実行可能性調査」「事業化可能性調査」。略称はFS
  • 目的は「やるべきか・やれるか・どうやるか」を投資実行前に判断すること
  • 「進出しない」という結論も正当な成果。撤退判断ができること自体に価値がある

なぜフィージビリティスタディを行うのか

FSを行う理由は、大きく3つに整理できます。

① 意思決定の根拠をつくる

海外進出や新規事業は、経営会議・取締役会・投資委員会での承認を経て実行されます。承認を得るためには、「なぜこの市場か」「いくら投資して、いつ回収するか」「何が起きたら撤退するか」を、客観的な根拠とともに示す必要があります。FSは、この稟議・投資委員会向けの材料を体系的に揃える工程です。

② 致命的なリスクを事前に発見する

進出後に判明する問題の多くは、事前の調査で見つけられたものです。外資規制で想定していた持株比率が取れない、業種ライセンスの取得に想定の倍の期間がかかる、現地法人の銀行口座開設に数ヶ月を要する、といった事態は、FSの段階で把握していれば計画に織り込めます。

③ 参入の「形」を最適化する

同じ市場に進出する場合でも、現地法人・支店・駐在員事務所・代理店契約・合弁など、参入形態は複数あります。FSでは複数のシナリオを比較し、投資額・スピード・リスク・撤退のしやすさの観点から推奨案を導きます。「進出するかどうか」だけでなく「どう進出するか」を決めるのがFSの役割です。

Note

日本の官公庁や公的機関による海外展開支援事業では、実証事業や本格投資の前段階として、FSに相当する調査の実施が求められることが一般的です。公的資金の活用を検討する場合も、FSは最初のステップになります。

評価の6つの観点

FSで検証すべき項目は業種や目的によって異なりますが、海外進出のFSであれば、以下の6つの観点を押さえるのが標準的です。この6つが揃って初めて「実現可能性」を総合的に判断できます。

観点 検証する内容 典型的な問い
市場性 市場規模・成長率・競合の密度・需要の実在性 その市場に、自社が取れる需要は本当にあるか
事業性 自社の強みと市場ニーズのフィット・収益モデルの成立可能性 自社が参入して、競合に勝てる理由は何か
法規制・参入要件 外資規制・業種ライセンス・認証・現地人雇用義務 そもそも参入が認められるか。何が条件か
財務・投資回収 初期投資・ランニングコスト・損益分岐点・回収期間・感度分析 いくらかかり、いつ回収できるか。前提が崩れたらどうなるか
オペレーション 人材確保・サプライチェーン・パートナー・ITインフラの現実性 計画どおりに現地で回せるか
リスク 政治・規制変更・為替・競合・文化的リスクと対応策 何が起きたら計画が崩れるか。その時どうするか

6つの観点のうち、日本企業のFSで手薄になりがちなのが「法規制・参入要件」と「オペレーション」です。市場性と財務は本社側でも検討できますが、現地のライセンス実務や採用環境は、現地の一次情報なしには評価できません。

Tip — 実務ポイント

財務モデルは「ベース・アップサイド・ダウンサイド」の3シナリオで組み、どの前提が崩れると回収期間がどれだけ延びるかを示す感度分析を必ず入れてください。投資委員会で最も問われるのは「楽観シナリオの数字」ではなく「悲観シナリオでも耐えられるか」です。

フィージビリティスタディの進め方(5ステップ)

FSは、おおむね次の5つのステップで進めます。外部の専門家に委託する場合も、社内で実施する場合も、基本的な流れは同じです。

  1. 1
    目的とスコープの合意
    進出の目的(売上拡大・調達拠点・統括拠点など)、意思決定の期限、対象市場・業種を確認し、何を評価軸にするかを決めます。既存の社内検討資料や仮説があれば、この段階でインプットします。ここが曖昧なまま始めると、調査が発散して「何も決められない報告書」になります。
  2. 2
    情報収集と現地一次調査
    デスクリサーチ(統計・規制・競合の公開情報)に加え、現地での一次情報収集を行います。競合・潜在顧客・当局・業界団体・現地パートナー候補へのヒアリングです。公開情報だけでは分からない「実際にライセンスが下りるまでの期間」「現地の商習慣」は、ここでしか取れません。
  3. 3
    財務モデルの構築
    売上・コスト・投資回収のシミュレーションを、複数シナリオで試算します。前提条件を明確にし、感度分析を含めた財務モデルを作成します。
  4. 4
    評価とシナリオ比較
    参入形態・時期・段階(まず駐在員事務所、次に現地法人など)ごとに評価し、推奨案と留保条件を整理します。意思決定者が比較して判断できる構造に落とし込みます。
  5. 5
    報告書とプレゼンテーション
    経営会議・取締役会・投資委員会向けに、エグゼクティブサマリーを重視した報告書を作成します。稟議に添付できる形式で納品されるかどうかは、委託先を選ぶ際の重要な確認事項です。

期間の目安は、対象が1カ国・1業種であれば4〜10週程度です。対象国が複数にわたる場合や、現地ヒアリングの対象者が多い場合は、それに応じて長くなります。

費用と期間の考え方

FSの費用は、「誰が、どの範囲を、どの深さで調べるか」で大きく変わります。一律の相場はありませんが、費用を左右する要因は明確です。

費用が上がる要因
対象国・都市が複数/現地ヒアリングの件数が多い/業種規制が複雑(医療・食品・金融など)/財務モデルの精緻化が必要/英語・現地語の原典確認が多い
費用を抑える工夫
目的とスコープを最初に絞る/社内で集められる情報(自社製品・既存顧客の声)は社内で用意する/段階的に実施する(まず机上FS、見込みがあれば現地FS)/報告書の形式を事前に指定して手戻りをなくす

社内で行うか、外部に委託するか

市場性・事業性・財務は、自社の製品や既存顧客を最もよく知る社内チームが主導するのが効果的です。一方、法規制・参入要件・オペレーション・現地リスクは、現地の実務経験なしには正確に評価できません。実務上は、「市場性・財務は社内、法規制・現地実態は外部」という分担が最も費用対効果が高くなります。

Note

外部に委託する場合は、「調査会社」と「進出後の実務まで支援できるコンサルティング会社」で、報告書の性質が変わります。前者は市場データの網羅性に強く、後者は「実際に設立・運営するとどうなるか」という実務の解像度に強みがあります。FSの目的が投資判断なら、後者の視点が報告書に入っているかを確認してください。

市場調査・PoC・事業計画との違い

FSと混同されやすい3つの用語との違いを整理します。どれも事業立ち上げの過程で使われますが、目的と位置づけが異なります。

用語 目的 FSとの関係
市場調査 市場規模・顧客ニーズ・競合を把握する FSの一部(市場性の検証)。市場調査だけでは「やるべきか」は判断できない
PoC(概念実証) 技術やサービスが実際に機能するかを小規模に試す FSの後、または並行して実施。FSが「机上の検証」、PoCが「実地の検証」
事業計画 実行することを前提に、計画と数値目標を定める FSの結論が「実行」の場合に作成。FSは事業計画の前提と根拠を提供する

整理すると、「市場調査で市場を知り、FSで進出の可否と形を決め、PoCで実地検証し、事業計画で実行に移す」という順番になります。実務では、FSの結論が出た後に事業計画の策定と会社設立の準備を並行して進めることで、意思決定から立ち上げまでの期間を短縮できます。

海外進出のFSで外せない5つの論点

海外進出を対象とするFSには、国内の新規事業にはない固有の論点があります。国や地域を問わず共通して確認すべき5つを、当社が日常的に支援しているUAE・サウジアラビアの例を交えて整理します。これらを見落とすと、財務モデルの前提そのものが崩れます。

① 参入形態と拠点の選択肢

海外進出には、現地法人・支店・駐在員事務所・代理店契約・合弁など複数の形態があり、国によって外資規制や営業できる範囲が異なります。たとえばUAEには、メインランド(内国法人)と40以上のフリーゾーンがあり、どこに拠点を置くかで外資規制・営業範囲・ライセンス費用・税務上の扱いが変わります。サウジアラビアでは投資省(MISA)のライセンスが前提となり、業種ごとに要件が異なります。「その国に進出する」という一言の中に、実際には数十通りの選択肢があることを前提にFSを設計する必要があります。

② 現地人雇用義務と採用環境

多くの国で、外資企業に対する現地人雇用の義務や優遇要件があります。サウジアラビアのSaudization(ニタカット制度)、UAEのEmiratisation(エミラティゼーション)は、従業員数に応じて自国民の雇用を義務づける制度で、人件費と採用計画に直接影響します。義務の有無だけでなく、「実際に必要な人材が採用できるか」という採用市場の実態も、オペレーションの観点で評価する必要があります。

③ 税制の前提

法人税率・付加価値税・源泉税・日本との租税条約の有無は、投資回収の計算に直結します。思い込みが最も危険な項目で、たとえばUAEは2023年に法人税を導入し、フリーゾーン企業も一定の要件(適格フリーゾーン事業者、QFZP)を満たさなければ優遇を受けられません。「UAEは無税」という前提で財務モデルを組むと、回収期間を誤ります。各国の法人税・VAT、さらにグローバルミニマム課税(Pillar Two)への対応を、進出前に確認しておく必要があります。

④ 銀行口座開設と資金移動

現地法人の銀行口座がなければ事業は始められませんが、各国でKYC(本人確認)が厳格化しており、開設に数週間から数ヶ月を要することがあります。中東でもこの傾向は顕著です。資本金の払い込み、日本からの送金、利益の還流まで含めた資金移動の実務を、立ち上げスケジュールに織り込む必要があります。

⑤ カントリーリスクと事業継続

政治・地政学・為替・規制変更のリスクは、国によって性質も頻度も異なります。中東地域では、地政学的な緊張が物流・人の移動・為替に短期間で影響を与えることがあります。FSのリスク評価では、「何が起きたら撤退・縮小するか」のトリガーと、事業継続計画(BCP)の初期設計まで含めておくことを推奨します。

Important

海外の公開情報は現地語または英語が原典で、制度変更の頻度も高い地域が多くあります。日本語の二次情報だけを根拠にしたFSは、前提が古い・不正確であるリスクが高くなります。規制・税制・ライセンス要件は、必ず当局の一次情報と現地の実務経験者の確認を経てください。

よくある失敗パターン

FSを実施したにもかかわらず進出後に問題が起きるケースには、共通するパターンがあります。

  • 結論ありきのFS。進出が既定路線で、FSが「稟議を通すための資料づくり」になっている。この場合、リスク評価が甘くなり、ダウンサイドシナリオが検討されない
  • 市場性だけで判断する。市場が大きいことと、自社がそこで勝てることは別問題。参入要件・オペレーション・競合の検証が抜けている
  • 一次情報がない。デスクリサーチだけで現地ヒアリングを省略した結果、ライセンス取得期間や採用難易度の実態を見誤る
  • FSと実行が分断されている。FSの報告書が実行フェーズ(会社設立・採用・システム導入)に引き継がれず、設立時に調査をやり直す
Tip — 実務ポイント

FSの最終章には、必ず「ネクストステップ」を入れてください。結論が「進出」であれば、設立形態・スケジュール・初年度の体制まで落とし込んでおくと、FS完了から事業開始までの期間を大幅に短縮できます。FSを「調査で終わらせない」ことが、投資対効果を最大化する鍵です。

よくあるご質問

フィージビリティスタディの日本語訳は何ですか?

「実行可能性調査」「事業化可能性調査」「企業化調査」などと訳されます。実務では英語の略称「FS」がそのまま使われることが多く、「FSを回す」「FSの結果待ち」といった言い方が一般的です。

フィージビリティスタディとPoCの違いは何ですか?

FSは、事業全体の実現可能性を机上で多角的に検証するものです。PoC(Proof of Concept、概念実証)は、技術やサービスが実際に機能するかを小規模に実地で試すものです。順番としては、FSで「やる価値があるか」を判断し、PoCで「実際に動くか」を確かめるのが一般的です。

市場調査だけではなぜ不十分なのですか?

市場調査は「市場がどうなっているか」を明らかにしますが、「自社が参入できるか」「採算が合うか」「どの形で入るべきか」には答えません。規制・参入要件・財務・オペレーション・リスクを含めて総合的に判断するのがFSです。

すでに進出を決めている場合でもFSは必要ですか?

「進出するかどうか」が決まっていても、「どこに・どの形態で・いつ・どの規模で」は未決定であることがほとんどです。この場合のFSは、参入形態の比較と初年度計画の精緻化に重点を置いた設計にします。結果として、設立後の手戻りを防ぐ効果があります。

FSの報告書は、日本本社の稟議や投資委員会でそのまま使えますか?

報告書の形式次第です。エグゼクティブサマリー、財務モデルの前提条件、複数シナリオの比較、リスクと対応策が稟議の論点に沿って整理されていれば、そのまま添付資料として使えます。委託する際は、報告書の形式と言語(日本語)を事前に確認してください。

Summary

フィージビリティスタディ(FS)は、新規事業や海外進出を「やるべきか・やれるか・どうやるか」の3点で事前に検証し、経営判断の根拠を揃える調査です。市場性・事業性・法規制・財務・オペレーション・リスクの6つの観点を、現地の一次情報をもとに評価し、複数シナリオの比較と感度分析を含む報告書にまとめます。市場調査は「市場を知る」、PoCは「実地で試す」、事業計画は「実行する」ための工程であり、FSはその間で「進出の可否と形を決める」役割を担います。海外進出のFSでは、参入形態の選択肢、現地人雇用義務、税制、銀行口座開設、カントリーリスクの5つが共通の論点であり、日本語の二次情報だけでは前提を誤るリスクがあります。FSを「調査で終わらせず、実行につなげる」設計にすることが、投資対効果を最大化します。

Disclaimer 本記事は、公開情報に基づく一般的な情報提供を目的として作成されており、 法務・税務・会計・財務に関する専門的なアドバイスを構成するものではありません。 情報の正確性・完全性について万全を期しておりますが、内容は予告なく変更される 場合があります。具体的なご判断・対応にあたっては、必ず専門家にご相談ください。
監修:外村 健一(Biz Easy 代表・コンサルタント) © 2026 Biz Easy FZCO. All rights reserved.
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