【2026年版】UAEのホールディング・ファミリーオフィス設立:メリットと拠点選択
UAEは法人税9%、個人所得税なし、参加免除と二重課税防止条約網に加え、DIFC・ADGM・DMCCが専用の制度を整備しています。日系企業・オーナー経営者が検討すべきメリット、拠点選択、実務上の留意点を整理します。
結論:UAEが選ばれる理由
ホールディングカンパニー(グループ統括・投資持株)とファミリーオフィス(一族の資産管理・承継)は目的が異なります。UAEでは、いずれの場合も「低い税負担」「英国コモンロー系の法制度を持つ金融フリーゾーン」「専用のライセンス制度」「中東・アフリカ・アジアを結ぶ地理」を同時に活用できる点が、最大のメリットです。
- 法人税は課税所得375,000 AED超の部分に9%(Cabinet Decision No. 116 of 2022)。個人の所得税・キャピタルゲイン課税はなし
- 一定要件を満たす配当・株式譲渡益は、参加免除により法人税の課税対象外
- 適格フリーゾーン事業者(QFZP)の適格所得は0%。投資目的の株式保有は適格活動に含まれる
- 二重課税防止条約は137件(UAE財務省。投資協定を含めると193件)。投資先からの源泉税負担の軽減が期待できる
- DIFC・ADGM・DMCCがホールディング/ファミリーオフィス向けの制度をそれぞれ整備
個人所得税が課されないことと、個人が事業活動を行う場合の取扱いは別問題です。事業活動を行う個人は法人税の課税対象となる場合があります(要確認:Cabinet Decision No. 49 of 2023)。
税制面のメリット:保有・配当・売却の各段階
1. 持株会社の法人税
UAE法人税の標準税率は、課税所得375,000 AEDまでが0%、超過部分が9%です。ホールディングカンパニーが受け取る配当や株式譲渡益に、参加免除が適用されるかどうかが、税負担を左右する最大の論点です。
2. 参加免除(Participation Exemption)
FTAの法人税ガイドによれば、配当・株式譲渡益を免税とするには、主に次の要件を満たす必要があります。
- 最低持分要件:持分5%以上(または取得原価4百万AED以上)
- 保有期間:12か月以上の継続保有(配当は保有意図でも可。譲渡益は実際の保有が必要)
- 課税要件:被投資会社が9%以上の法人税(または同等の外国税)の対象であること
- 資産要件:被投資会社の資産に占める、免税対象とならない持分等の割合が一定以下であること
2025年1月1日以降に開始する課税期間には、改正後の大臣決定(Ministerial Decision No. 302 of 2024)が適用されるとの報告があります。最新の要件は必ずFTAの最新ガイドで確認してください(要確認)。
3. 適格フリーゾーン事業者(QFZP)
フリーゾーンに所在する法人が、法人税法第18条の要件をすべて満たし続ける場合、適格所得には0%が適用されます。要件は、(1) UAEでの十分な実質(コア収益創出活動をフリーゾーンで行い、十分な資産・有資格の常勤従業員・営業費用を備えること)、(2) 適格所得の獲得、(3) 通常課税(第19条)を選択していないこと、(4) 移転価格規則(第34条・第55条)の遵守、(5) 大臣が定める要件(非適格収益を僅少基準内に収めること、監査済み財務諸表の作成)です。僅少基準は、非適格収益が総収益の5%またはAED 5百万のいずれか低い額を超えないことです。
適格活動と除外活動は、2025年8月28日付の大臣決定第229号(MD 229/2025)が定めています。この決定は大臣決定第265号(2023年)を廃止し、2023年6月1日まで遡って施行されています。「投資目的での株式その他有価証券の保有」は適格活動の一つで、原則として12か月以上の継続保有により投資目的と扱われます。持株会社の場合、適格活動に該当しても、取締役会による意思決定をフリーゾーンで行うなど、実質要件を満たす必要があります。
要件を一つでも欠くと、その課税期間の期首にさかのぼってQFZP資格を失い、その後4課税期間を含む計5課税期間は通常の法人税率で課税されます。0%の適用は一度限りの判定ではなく、毎期の維持管理が必要です。なお、規制を受けないファミリーオフィスが一族(自然人)へ有償でサービスを提供する場合などは、適格活動・除外活動の整理が個別の事情により異なります。UAE側の判定・設計については、当社にご相談ください。
MD 229/2025の公表を受けたFTAガイド(Free Zone Persons、2024年5月版)の改訂版は、現時点で確認できていません。ガイド内のMD 265/2023への言及は、MD 229/2025に読み替えて参照してください。
4. 条約ネットワークと日・UAE租税条約
UAE財務省は、UAEが137件の二重課税防止条約(DTA)を締結していると公表しています(投資協定を含めると193件)。日本とUAEの間にも租税条約があり(2013年署名、2014年12月24日発効)、日本法人が支払う配当に対する日本の源泉税は、条約により国内法の税率から軽減されます。限度税率は、受益者が議決権株式の10%以上を6か月以上保有する法人の場合は5%、その他の場合は10%です。なお、UAEは国内法上、配当に源泉税を課していません。
- 受取人がUAEの居住者であり、かつ配当の受益者であること
- 多国間条約(MLI)の主要目的テスト(PPT)が適用される。特典を得ることが主な目的の一つとみなされる仕組みでは、軽減が否認され得る。特典制限条項(LOB)はない
- FTAが発行する税務居住者証明書(法人は設立から12か月以上が必要)を取得しておく
- 日本側では「租税条約に関する届出書(様式1)」を、最初の支払日の前日までに支払者経由で提出する
UAEには個人所得税がないため、個人への条約適用には論点があります。取扱いは個別の事情により異なります。UAE側の居住者の整理や手続については当社に、日本側の課税関係については日本の税理士にご相談ください。
拠点選択:DIFC・ADGM・DMCCの比較
UAEで専用制度を持つ主な拠点は、ドバイのDIFC・DMCC、アブダビのADGMです。以下は、公開情報に基づく比較です。
| 項目 | DIFC(ドバイ) | ADGM(アブダビ) | DMCC(ドバイ) |
|---|---|---|---|
| 法制度 | 独立した英国コモンロー系の法制度・裁判所 | 英国コモンローを適用する独立した法制度 | DMCC規則に基づくフリーゾーン(UAE連邦法・ドバイ法も適用) |
| 持株会社の器 | プリスクライブド・カンパニー、ファンデーション等 | 会社(SPV等)、ファンデーション | ホールディングカンパニー・ライセンス(事業活動は不可、本社機能・従業員雇用は可)、SPVライセンス |
| ファミリーオフィス制度 | Family Arrangements Regulations(2023年1月31日施行)。Family Wealth Centreが窓口 | シングル・ファミリーオフィス(SFO)。制御活動としてRegistration Authorityが認可 | Family Office Rules(2024年10月10日施行)。SFO/MFOライセンス |
| 家族の資産要件 | 純資産USD 50m以上(要確認) | 純資産USD 10m以上(ADGM公式) | SFOの最低資産要件は要確認(流動資産USD 1m以上との報告あり) |
| 金融規制上の扱い | SFOはDFSAライセンス不要。他家族へのサービス(MFO)等は規制対象 | SFOは金融サービス許可不要。MFOはFSRAの規制対象 | SFO/MFOともDMCCのライセンス。SFOは取締役・株主・UBOが同一家族であること |
| 開示・運営 | 株主・役員情報を非公開登録簿に記載する申請が可能 | Restricted Scope Companyを選択すると公開情報を最小化。監査義務なし(ADGM公式) | 要確認 |
| 適合しやすいケース(当社見立て・推論) | 大規模・多世代の資産。金融エコシステムを重視 | 中規模以上の資産。軽い運営・ファンデーション活用を重視 | 貿易・商社系の事業会社の持株、DMCC既存拠点との一体運営 |
いずれの拠点でも、フリーゾーンに所在するだけで0%が適用されるわけではありません。QFZPの全要件充足が前提です。また、資産要件や制度内容は改正されるため、各当局の最新規則で確認してください。
ファミリーオフィス固有の論点:承継・ガバナンス・プライバシー
ファミリーオフィスでは、税務以上に「器の組み合わせ」と「家族ガバナンス」の設計が重要です。一般に、運営会社(ファミリーオフィス)、資産保全・承継のためのファンデーション、事業保有のための持株会社を、同一のフリーゾーン内で組み合わせる設計が検討されます。
日本の相続税・贈与税の課税関係は、被相続人・相続人の居住地、国籍、資産の所在等により決まります。UAEに器を設けるだけで日本の課税が解消されるとは限りません。ご家族の状況によって結論が異なるため、日本側の課税関係は日本の税理士・弁護士にご確認ください。UAE側の器の設計・設立・運営は当社が支援し、日本側の専門家と連携して進めることができます。
設立前に確認すべき留意点
- 実質(Substance):投資判断・取締役会・ポートフォリオ管理をUAEで実際に行う体制が必要。ペーパーカンパニーは認められない
- AML/UBO:実質的支配者の登録と資金源の説明が求められる。詳細は UAEにおけるAML規制の実務インパクト を参照
- 銀行口座:KYCが最大のボトルネックになりやすい。詳細は UAEにおける銀行対応 を参照
- DMTT(国内ミニマム課税):連結売上7.5億ユーロ以上の多国籍企業グループは、2025年1月1日以降開始の事業年度から15%の最低税率が適用される(Cabinet Decision No. 142 of 2024)。UAEの投資事業体(Investment Entity)はトップアップ税の対象外
- 規制ライセンスの境界:複数家族へのサービス提供や、第三者向けの金融サービスは、DFSA/FSRA等の規制対象となる
日本の居住者または日本法人が出資するUAE法人については、日本の外国子会社合算税制(CFC)の適用可能性を検討する必要があります。ペーパーカンパニー等の特定外国関係会社の適用免除基準は27%、対象外国関係会社は20%であり、UAEの法人税率9%(QFZPの適格所得は0%)はいずれも下回ります。実体のない持株会社は、会社単位で合算課税される可能性があります。税率基準は改正があり得るため、最新の国税庁資料と日本の税理士による個別確認が必須です。
設立までの標準的なステップ
- 1目的の整理(グループ統括・持株か、資産承継か)
- 2家族・グループの範囲と資産要件の確認
- 3拠点(DIFC・ADGM・DMCC等)と器の選択
- 4税務ポジションの設計(参加免除・QFZP・DMTT・日本側の課税)
- 5当局への登録・ライセンス取得とKYC対応
- 6銀行口座開設と実質(人員・拠点・意思決定)の構築
- 7年次の更新、会計・監査、UBO・実質報告への対応
主な一次情報源:UAE財務省 大臣決定229/2025(適格活動・除外活動) / UAE財務省 Cabinet Decision 100/2023(適格所得) / FTA 法人税ガイド(Free Zone Persons) / FTA 法人税ガイド(参加免除) / UAE財務省(二重課税防止条約) / FTA 税務居住者証明書 / 日本 財務省(日・UAE条約へのMLI適用) / 国税庁 No.2888(租税条約に関する届出書) / UAE財務省(DMTT) / ADGM ファミリーオフィス / PwC(DIFC Family Arrangements Regulations) / DMCC Licensing Rules
UAEのホールディングカンパニー・ファミリーオフィスは、法人税9%、参加免除、QFZP、137件の条約網といった税制面の優位性に加え、DIFC・ADGM・DMCCの専用制度という制度面の強みがあります。一方で、実質要件、AML/UBO、DMTT、日本のCFC税制といった論点を事前に設計に織り込まなければ、期待した効果は得られません。目的(統括・持株か、承継か)から逆算し、拠点と器を選択することが出発点です。
