UAEにおけるAML規制の実務インパクト
- 17/12/2025
- Posted by: Marie
- Category: INSIGHTS_JP

― 銀行リスクと内部統制設計の再構築 ―
1. はじめに
UAEにおけるアンチマネーロンダリング(AML)規制は、近年大きく強化されています。
これは単なる法令整備ではなく、銀行実務・取引審査・企業ガバナンスに直接影響を与える変化です。
特に、UAEで事業を行う企業にとって、AMLは「制度理解」の問題ではなく、
銀行対応リスクと内部統制設計の問題へと移行しています。
本稿では、UAE AML規制の位置づけと、企業が実務上直面するリスク、そして統制設計のポイントを整理します。
【要点まとめ】
- UAEにおけるAML規制は「強化フェーズ」にある
- 銀行対応が最大の実務リスク
- 設立よりも「運営体制」が重要
- ガバナンス設計が競争優位を左右する
2. AML制度の位置づけ
アンチマネーロンダリング(Anti-Money Laundering, AML)とは、
犯罪によって得られた資金が正当な資金であるかのように見せかけられる行為(マネーロンダリング)を防止するための仕組みを指します。
一般的にAMLは、以下のような目的で導入されています。
- 犯罪資金の流入防止
- テロ資金供与の防止
- 金融システムの健全性確保
- 国際的な信用維持
UAEにおいても、国際金融センターとしての地位を維持するため、
AMLは極めて重要な政策分野の一つとされています。
UAEのAML規制は、FATF(Financial Action Task Force)の国際基準を踏まえ整備されています。
対象となるのは金融機関のみならず、以下を含みます:
- 金融情報ユニット(FIU)
- DNFBP(指定非金融事業者・専門職)制度
- 各フリーゾーンおよび金融機関による監督体制
これらの指定非金融事業者・職業(DNFBP)には以下が含まれます:
- 貴金属・宝石取引業者
- 不動産仲介業者・ブローカー
- 信託・法人サービス提供者
- 監査人・独立会計士
- 弁護士、公証人及びその他の法律専門家
- 商業ゲーム運営者(新規追加。2025年12月14日より施行)
規制は形式的な届出義務ではなく、実質的なリスク管理体制の構築を求めています。
3. 国際的影響と規制強化の背景
UAEはFATFグレーリスト入り(2022年)を受け、AML体制を強化してきました(2024年からグレーリストから除外)。
現在は改善が進んでいるものの、銀行や規制当局は依然として慎重姿勢を維持しています。
その結果、企業に対するKYC(Know Your Customer)および取引審査は実務レベルで厳格化しています。
4. なぜUAEでAMLが重要なのか
AMLは罰金リスクの問題にとどまりません。
実務上最も顕在化するのは銀行対応リスクです。
例えば:
- 送金遅延
- 追加書類提出要求
- 一時的な口座凍結
- 高リスク取引の精査。
AML対応が不十分な場合、違法性の有無に関わらず、銀行側のリスク管理判断により制限措置が取られる可能性があります。
5. 企業が実際に直面しているリスク
Biz Easyの支援現場では、以下のようなケースが見られます。
ケース1:親会社からの資金移動に対する追加審査
日本本社からUAE法人への通常の資金移動にもかかわらず、銀行から以下を求められました:
- 資金源の詳細説明
- 親会社の財務資料
- グループ構造図
- UBOの再確認資料
結果として、通常数日で完了する送金手続きが数週間に及びました。
ケース2:UBO構造の説明不足による銀行照会
多層持株構造を持つ企業で、UBO (Ultimate Beneficial Owner: 実質的支配者) の実質支配者説明が曖昧であったため、銀行から追加質問が入りました。
結果として:
- 追加宣誓書の提出
- 株主構成の再提出
- 公証書類の追加取得
一時的に口座利用が制限され、事業運営に影響が出ました。
中には提出できず、口座閉鎖したケースもありました。
ケース3:第三国取引に対するSTR確認
高リスク国との取引があった企業に対し、銀行からSTR(Suspicious Transaction Report: 疑わしい取引の届出)対象の確認が入りました。
企業内部に明確なリスク評価フローがなかったため、説明対応が後手に回りました。
これらは違法行為ではなく、統制設計の不足による実務リスクです。
6. UAE AML 枠組みの主要構成要素
UAEのAML枠組みは複数の要素が密接に連携することで強力な効果を発揮しています。
1) 顧客デューデリジェンス(CDD)
金融機関は顧客の身元確認(KYC)に加え、取引目的、資金源、リスクプロファイルなどを総合的に評価します。高リスク顧客には継続的な取引モニタリングを実施し、不自然な資金移動を早期に発見します。
2) 疑わしい取引報告(STR)
取引に不正の可能性がある場合、金融機関は遅延なくFIUへ報告しなければなりません。UAEでは電子プラットフォームを活用した迅速な報告体制が整備されており、AIによる自動検知システムの導入も進んでいます。
3) 内部管理体制の整備
社内ルール、記録管理、責任者の明確化など、
「対応できる体制があるか」が問われます。
4) 金融情報機関(FIU)の役割
FIUは報告された情報を分析し、必要に応じて捜査機関や国際機関と連携して調査を進めます。金融セクター全体の情報ハブとして機能し、犯罪資金の流れを可視化する中心的存在です。
実務上問題となるのは、制度理解よりも証跡管理と説明可能性です。
7. 特に注意すべきポイント
- UBO情報(株主構成や最終受益者)の常時最新化
- 取引の合理性(「なぜこの取引が必要か」の説明)
- 事業実態との整合性(ライセンス内容と実際の活動の一致)
- 高リスク国取引の事前評価
- 資金源説明資料の整備
- 社内AMLポリシーの文書化
- 年次レビューの実施
8. AMLは設立時より“運営”が重要
会社設立時は審査を通過しても、
その後の運営で不整合が生じると、銀行との関係が悪化します。
AMLは設立時のチェックリスト対応では不十分です。
運用体制が整備されていなければ、銀行リスクは回避できません。特に、
- UBO変更時の更新
- KYC定期見直し
- 取引モニタリング
- 銀行向け説明資料の常備
が重要です。
9. Biz Easyの視点 ― 実務としてのAML対応
Biz Easyでは、AMLを単なるコンプライアンス対応としてではなく、ガバナンス設計の一部と捉えています。
具体的には:
- AMLリスク簡易診断
- UBO構造図の整理
- 銀行説明資料の整備支援
- 内部AMLポリシー文書作成
- STR対応フロー設計
特に、銀行対応を見据えた「説明資料パッケージ化」は、多くの企業にとって盲点となっています。
これらを実務ベースで支援しています。
ライセンス当局や銀行からの要求等はいつ来るかわかりませんが、事業の忙しさに関係なく、期限をきって説明責任を要求してきます。大事なビジネスが止まることのないように、定期的に運営管理していくことが重要です。
10. まとめ
UAEにおけるAML対策は、
- 制度理解の問題ではなく
- 銀行リスク管理の問題であり
- 企業ガバナンス設計の問題です。
AML対応は規制遵守の問題ではなく、UAE市場における信用力を示す基盤です。
適切な統制設計が整備されている企業は、銀行からの信頼も高まり、事業運営の安定性も向上します。
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