Gulfood 2026 視察レポート ― 中東食品市場の構造と日本企業の進出動向 ―
- 23/02/2026
- Posted by: Kenichi
- Category: INSIGHTS_JP

はじめに
Biz Easyは2026年1月、ドバイで開催された国際食品展示会「Gulfood 2026」を視察しました。GulfoodはDubai World Trade Centreが主催する、食品・飲料分野における世界最大級のBtoB展示会の一つであり、毎年世界各国から食品メーカー、ディストリビューター、小売・外食事業者、投資家などが集まる中東市場の重要な業界イベントとして位置付けられています。
本年は2026年1月26日から30日まで開催され、Dubai World Trade CentreおよびExpo City Dubai内のDubai Exhibition Centreの2会場で実施されました(Expo Cityでの開催は今年が初)。
主催者発表によると、2026年は約8,500社以上が出展し来場者数も約145,000人規模と見込まれる過去最大規模での開催となりました。前年の2025年は約5,500社の出展、来場者約100,000人規模であったことから、展示会の規模は大幅に拡大していることが確認されます。
本レポートでは、現地視察を通じて確認された市場構造および日本企業の動向について整理いたします。
1. ディストリビューターの役割が大きい流通構造
展示会全体を通じて特に強く確認されたのは、中東食品市場におけるディストリビューターの重要な役割です。会場では、多くの流通企業が大規模なブースを設置し、複数ブランドの商品を一括して展示していました。UAEの食品流通大手企業は、自社の流通網や取扱ブランド数を前面に打ち出した展示を行っており、来場者に対して販路提供企業としての存在感を強く示していました。この状況から、中東市場ではメーカー単独での市場参入よりも、現地ディストリビューターとの連携が市場開拓の鍵となることがうかがえました。




2. 日本企業の出展形態と進出段階
日本企業の出展は大きく二つの形態に分かれていました。
第一に、JETROが主催するJapan Pavilionへの出展です。ここでは多くの中小企業が加工食品や調味料などを展示し、現地ディストリビューターとの商談を中心とした活動が行われていました。これは、中東市場への初期参入においてディストリビューターを通じて販路を確保するモデルが依然として有効であることを示しています。


第二に、大手企業による単独出展です。味の素や伊藤園などは独立したブランドブースを設置し、製品認知の向上や既存販路の拡大を意識した展示が行われていました。単独出展は単なる販路獲得にとどまらず、ブランドとしての世界観・品質・ストーリーを自社主導で訴求し、継続的な商談機会を作る「市場定着フェーズ」の動きと捉えられます。





中東市場ではディストリビューター主導の展開が一般的ですが、販売を全面的に委ねた場合、ブランドマネジメントの主導権を確保することが難しくなるケースがあります。多くのディストリビューターは複数ブランドを同時に取り扱っており、営業リソースや販促投資の配分は、売上規模や回転率、短期的な収益性などを基準に決定される傾向があります。そのため、新カテゴリーの市場育成やブランド認知の構築に十分なリソースが配分されにくい構造があります。
結果として、販売活動が短期的な数量拡大や価格競争に偏りやすく、中長期的なブランド価値の蓄積やポジショニング戦略の実行が限定的となる構造的課題が生じる可能性があります。
こうした背景から、日本企業の中東進出は「代理店を通じた輸出商談中心の段階」から、「自社主導でブランドを浸透させる段階」へと移行する傾向が見られます。後者の段階では、現地でのマーケティング実行力、パートナーのマネジメント、KPI管理、顧客接点の設計などが重要となります。こうした構造的制約を踏まえると、ブランド主導権を確保するために、現地法人の設立や現地チームの配置といった形で、自ら市場運営に関与する体制を構築する動きが生じると考えられます。
3. 国別展示エリアに見る市場開拓活動
展示会では各国・地域ごとに出展エリアが設けられ、国単位で自国企業の製品やブランドに関するプロモーションが行われていました。特に欧州諸国やアジア諸国は大規模な国別ブースを展開しており、国単位での市場開拓に向けた訴求活動が活発に行われている様子が確認されました。このような国別展示エリアの存在から、中東市場が世界各国の食品企業にとって重要なビジネス展開先の一つとして認識されている様子がうかがえました。
4. 食品イノベーション分野に関するプログラムの実施
本年の展示会では、食品分野の技術革新やビジネス動向に焦点を当てた公式プログラムとして「Gulfood nxt」が実施されていました。会場内にはステージが設けられ、FoodTech 500ランキングの発表、代替タンパク、食品サプライチェーンのデジタル化、食品ロス対策、循環型技術などをテーマとしたセッションやパネルディスカッションが開催されていました。また、スタートアップ企業によるピッチイベントや投資家との交流機会も設けられており、食品分野における技術動向やビジネスモデルに関する議論が行われていました。これらのプログラムから、Gulfoodが食品取引にとどまらず、食品産業における技術・投資・ビジネス動向を扱う国際的なプラットフォームとしての役割を担っていることが確認されました。


5. 中東市場参入に向けた示唆
本視察を通じて、中東市場への参入においては、事前の戦略設計が極めて重要であることが改めて確認されました。特に、以下の論点は参入前に十分検討すべき重要事項といえます。
- どのディストリビューターと連携するか
- 独占契約とするか、非独占(複数代理店体制)とするか
- UAE単国展開とするか、GCC横断展開を志向するか
中東市場では、流通構造がディストリビューターを中心に構築されており、契約形態や販売体制の設計がその後の事業拡大に大きな影響を与えます。戦略設計が不十分なまま参入した場合、後から販売体制や契約条件を見直すには多大な時間とコストを要する可能性があります。そのため、市場構造を十分に理解した上で参入モデルを設計することが重要となります。
6. 食品・食品テック企業にとってのGulfoodの位置づけ
Gulfoodは単なる商談展示会ではなく、中東食品市場の構造や流通実態を直接把握できる重要なビジネスプラットフォームです。特に以下のような企業にとって、出展および視察の意義が高いと考えられます。
- 中東市場への参入を検討している食品メーカーおよびフードテック関連企業
- 現地ディストリビューターとの接点構築や販路開拓を目的とする企業
- 市場動向・競争環境の把握やブランド認知向上を目的とする企業
また、参入戦略が明確でない段階においても、展示会を通じて市場の特徴や流通構造を理解し、パートナー候補との接点を持つことができる点において、大きな価値を有するイベントといえます。
まとめ
食品関連事業者が中東市場へ参入するにあたっては、参入モデルの設計、ディストリビューター選定、現地展開体制の構築など、複合的な検討が求められます。中東市場は成長市場である一方、流通構造と代理店選定、契約設計を誤ると主導権を失いやすい市場でもあります。
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