アラブ首長国連邦における会社清算の手続き方法
- 15/01/2026
- Posted by: Marie
- Category: INSIGHTS_JP

― 事業撤退・拠点整理を判断する際に知っておくべき実務ポイント ―
はじめに
本記事では、アラブ首長国連邦(UAE)における会社清算の手続き方法を整理するとともに、
事業撤退や拠点整理を検討する企業が、「いつ・どのような形で清算を進めるべきか」を判断するための実務上のポイントを解説します。
UAEでの会社清算は、単なる法人抹消手続きではありません。
銀行口座、ビザ、税務、将来の再進出可否にも影響を及ぼす、経営判断そのものです。
「進出」と同様に、「撤退」や「整理」もまた、
事業を続けてきた企業にとって必要な選択肢の一つとして、冷静に検討する必要があります。
この記事を読んだら…
- UAEにおける会社清算の基本的な考え方
- 清算の種類と、それぞれが適するケース
- 清算プロセスで発生しやすい実務上の落とし穴
- 清算を「次の選択肢」につなげるための視点
第1章: UAEにおける会社清算とは
UAEにおける会社清算とは、法人ライセンスを正式に終了させ、
銀行口座・ビザ・債務・政府登録をすべてクローズする一連のプロセスを指します。
単に営業を停止するだけでは清算は完了せず、
当局・銀行・取引先との関係をすべて整理する必要があります。
UAE では、清算は「商業会社法(Federal Law No. 2 of 2015)」によって規定されており、法的罰則や複雑な問題を生じさせないよう慎重に実行されなければなりません。
第2章: UAE における清算の種類
1. 任意清算(Voluntary Liquidation)
親会社や株主、取締役など事業を終了する判断が社内で完了している場合に選択されるケースです。
戦略変更、収益性の低下、合併など、さまざまな理由で任意清算が行われることがあります。
2. 強制清算(Compulsory Liquidation)
会社が債務を返済できなくなり、債権者が裁判所に清算を申し立てた場合に開始されます。
司法手続きが必要となるため、より複雑なプロセスになります。
3. 解散(Dissolution)
清算手続きを経ずに会社が解散する場合もあります。
これは、会社が法的に活動休止状態と宣言され、資産が譲渡されるか償却される場合に適用されます。
第3章: UAEにおける会社清算の主なステップ
以下は一般的な流れです(法人形態・首長国・フリーゾーンにより異なります)。
1. 清算の決定
清算手続きの第一段階は、会社の株主または取締役によって決定されます。任意清算の場合、まず清算手続きを承認するための正式な会議を開き、清算手続き開始の特別決議(Special Resolution)を可決する必要があります。この決定により清算プロセスが開始されます。
2. 清算人の選任
清算手続きには、ライセンスを保有する清算人が必要です。清算人は会社の財務処理を担当し、債務の決済を管理し、資産の適切な分配を確保する専門家です。清算人は以下の業務を担当します:
- 経済開発局(DED)またはフリーゾーン当局への通知
- 資産の査定および売却
- 債権者への負債精算
- 登録抹消(デリジェストレーション)申請
清算人が、会社が登録されている特定の管轄区域において清算を処理するための免許と資格を有していなければなりません。
3. 負債および債務の清算
清算手続きの一環として、会社の債務を清算する必要があります。これには債権者、サプライヤー、その他の負債への支払いを含みます。会社がすべての財務上の義務を履行できない場合、債権者と債務再編の交渉を行う可能性があります。未払いの債務は清算手続きを妨げる可能性があるため、この手順を早期に処理することが極めて重要です。
4. 当局への通知
清算決定後、関係当局へ届出を行います。一般的には以下の機関が対象となります:
- ドバイ経済開発局(DED)
- フリーゾーン企業の場合は各フリーゾーン当局
- UAE 経済省(必要に応じて)
- 事業内容に関連する規制当局
清算手続きは正式に登録し、提出するすべての関連書類が承認されなければなりません。なお、この過程で会社の営業許可証も取消されます。
5. 資産の売却と分配
清算人や会社担当者は、不動産、機械、在庫などの会社の資産を売却します。売却による収入は、債権者への支払いや未払いの負債の清算に充てられます。残余資金がある場合、株主の持分比率に応じて分配されます。
6. 契約の解除・解約
全ての会社の契約や登録を解除していきます。
具体的には、RTAなどの道路交通局やDubai Custom(ドバイ税関)を始めとする各首長国税関、従業員のビザ(解雇通知・退職金計算・キャンセル手続き)、オフィスや土地、建物の解約などがあります。
特に税関手続きについては、税務署同様、過去の申請のレビューなどのアセスメントが実施され時間がかかるケースが多いです。
7. 法人銀行口座の閉鎖
全ての債務や契約が解除できれば、残金を親会社・株主に分配します。その後、銀行の手続きに従って、口座を閉鎖します。その時に、銀行側で何かしらの契約やサービスが存在している場合は、一緒に解除の手続きを行いましょう。
8. 清算人レポートの作成
銀行口座閉鎖後、清算人による清算レポートを作成します。
負債の売却等がある場合は、清算人に事前に相談が必要となります。
9. 登録抹消(Deregistration)と最終報告
すべての負債が精算され資産が分配された後、登録が解除されます。清算人は債務の清算と分配の証明を含む最終報告書を当局に提出します。これを受けて、会社は商業登記簿から正式に削除されます。
10. 清算手続きの完了
すべての手順が完了した後、会社の法的存在は正式に消滅します。会社はすべての記録から削除され、完全な閉鎖となります。
11. FTA(UAE連邦税務局)の解除
CITやVATの登録や申告をしている会社は、登録解除の手続きが必要となります。
第4章: 清算プロセスで注意すべき実務ポイント
● 銀行口座の閉鎖
未処理の取引や説明不足により、時間がかかりやすい工程です。
AML対応が不十分だと、清算自体が止まることもあります。
● 清算費用
UAEにおける清算費用は、会社の規模や複雑さによって異なります。
費用には通常、清算人の報酬、政府への届出手数料、および法律費用が含まれます。
清算手続きを開始する前に、関連する費用を明確に把握しておきましょう。
● 雇用契約 (ビザ・人事)
会社が従業員を雇用している場合、その契約はUAE労働法に基づき解除されなければなりません。
退職金を含む最終的な精算金および補償金は、従業員に対して支払わなければなりません。
ビザ未整理は罰金や将来のビザ申請への影響につながり、清算プロセスが止まってしまう可能性もあります。
また、退職金計算や通告、最後までの清算プロセスの担当者の雇用期限など、しっかりとした会社対応が求められます。
● 税務・会計処理
清算手続き中の企業も、特にUAEの付加価値税(VAT)や法人税(CIT)制度下で事業を行っている場合、税務上の債務を負う可能性があります。
将来的な罰則や当局とのトラブルを避けるため、全ての税務上の債務を清算することが極めて重要です。
また、いつまで既存のVATや法人税の申告をし続けないといけないかなどもポイントとなります。
● 専門家のサポート
清算手続きの複雑性を考慮すると、UAEの規制への準拠を確保し、よくある落とし穴を回避するため、法律およびビジネスコンサルタントから専門家の助言を求めることを強く推奨します。
第5章: よくある実務上の落とし穴
UAEでのビジネスがながければ長いほど、そしてビジネスが活発であればあるほど、清算プロセスは長期化する傾向にあります。
UAEでの会社清算でよくある実務上の落とし穴には、以下のようなものがあります。
- 「清算すればすぐ終わる」と考えてしまう
- 清算後の再進出時に、過去の未処理が影響する
- 銀行口座が閉鎖できず、清算が長期化する
- 通関の閉鎖手続きに時間がかかってしまう
- 従業員とのトラブル(解雇や退職金など)
- 駐在員ビザの整理が遅れ、罰金が発生する
- 税務・会計処理が未完了のまま進めてしまう
- 代表者のビザのキャンセルのタイミングと帰任のタイミングを間違えてしまう
- 通知遅れにより、無駄にライセンス更新が必要となってしまう
第6章: Biz Easyの視点
― 清算は“次の判断”につながるプロセス
Biz Easyでは、UAEでの会社設立から事業運営、清算支援までを通じて、
清算が「失敗」ではなく、将来の事業展開にも影響する重要なプロセスであることを見てきました。
数年後の事業環境の変化から再度設立するケースや事業売却、事業譲渡もありえます。
適切な順序で清算を行うことで、
- 本社側のガバナンスを保つ
- 将来の再進出を阻害しない
- 関係者への影響を最小限に抑える
ことが可能になります。
清算はビジネス上、収益を発生しない手続きとなるため、
正しく行い罰金や無駄な出費を抑えつつ、会社のリソースを新たなビジネス(地域や他事業)へスマートに振り分けることが重要です。
第7章: まとめ
UAEにおける会社清算は、
事業の終わりではなく、次の判断のための整理プロセスです。
早い段階から、
- 清算の選択肢を理解する
- 実務リスクを把握する
- 専門家と整理を進める
ことで、不要なトラブルを回避しやすくなります。
第8章: よくある質問(FAQ)
Q1:会社清算の最初のステップは?
最初のステップは清算の決定です。つまり、会社を閉鎖するという合意を得ることです。
Q2:清算には清算人が必要ですか?
はい、法的に清算人は必須であり、手続きを正しく進めるための重要な役割を担います。
Q3:UAE で会社清算にはどのくらいの期間がかかりますか?
法人形態や通関・銀行対応状況により、数か月〜1年以上かかるケースもあります。
Q4:清算後に再進出は可能ですか?
会社が清算されると、その会社は存在しなくなります。
適切に清算を行えば可能ですが、未処理事項があると影響する場合があります。
Q5:社員や顧客にはどのように通知すべきですか?
事業終了についてまずはスケジューリングと方針を決定し、従業員、顧客、取引先に通知し、適切に引き継ぎや計画ができるよう配慮しましょう。
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状況に応じたサポートを行っています。