UAE法人税 – グローバル企業が留意すべき恒久的施設(PE)および移転価格税制への対応 –
2023年6月より順次適用が開始されているUAE法人税において、今回はPE(恒久的施設)と移転価格税制(Transfer Pricing)への対応について解説します。これは、グローバル企業などの世界に点在するグループ会社との取引を行っている企業や、駐在員事務所としてUAEに進出している企業が留意すべきポイントとなります。また、グローバル企業でなくとも、日本に関連会社を有している場合や、個人事業主の方などでも年間課税所得額が基準額を超える場合はご留意頂く必要がございます。
この記事を読んだら…
- UAE特有のPE(恒久的施設)の捉え方や対応策が分かる
- 移転価格税制の概要および準備方法が分かる
- グローバル企業としてのUAE法人の管理方法の検討ができる
第1章: 日系グローバル企業の進出形態と税務リスク
日系グローバル企業のUAE進出形態は、①現地法人(子会社)・②支店・③駐在員事務所のいずれかとなっています。
また、各法人・支店が所在するエリアにつき所管する監督機関が異なるところが、UAEの特徴でもあります。
例:メインランドであればDubai Economy & Tourism(DET, 旧DED)、フリーゾーンであれば各フリーゾーン(DIFC, Dafza, Jafzaなど)
法人税の適用ルールは、前回ブログ記事に記載している通り、各所在エリアにより異なりますが、PEや移転価格税制については、原則エリアを問わず確認および対応が必要な事項となります。
特に、駐在員事務所であればPE(恒久的施設)への対応が、また、現地法人や支店であれば移転価格税制への対応が重要なポイントです。
第2章: UAEにおけるPE(恒久的施設)
PEとは、”Permanent Establishment”の略で、【恒久的施設】と訳され、事業活動を行う際の一定の場所を意味します。UAE国外の外国法人は、UAE国内源泉所得につき法人税の納税義務を負いますが、このPEに認定されるとUAEでの課税対象者として認識されますので、年次コンプライアンス対応など、継続的な税務対応が求められるようになります。
では、UAEではどのようなPEの種類があるのか、以下をご確認ください。
<PEの種類>
①支店・固定PE | UAE国内に固定または恒久的な場所を有し、 そこを通じて外国法人またはその一部の事業が行われる。 |
②代理人PE | ある人が外国法人に代わってUAEで事業または事業活動を行う権限を有し、習慣的に行使している場合(これは、その人が常習的に非居住者の名前で契約を締結しているか、またはその人の名前で契約を締結していることを意味します)外国法人による重大な変更を必要とせずに、外国法人が締結する契約を常習的に交渉する) |
③その他PE | 外国法人がUAEの閣議決定によって指定される上記以外の形態であること。 |
(UAEの法人税は原則、OECDのルールに則っており、他先進国と基本的な考えは同じです)
既に国際税務に精通されている方にはお馴染みかと思いますが、それ以外の方からすれば???となってしまうかと思います。
これをUAEに所在する日本法人に当てはめると、おおよそ以下のように整理ができます。
<法人形態ごとのPE認識>
現地法人(子会社) LLC, FZE, FZCO | 支店・固有PEに該当します =UAEでの課税対象者として認識される |
支店 Branch | 支店・固有PEに該当します =UAEでの課税対象者として認識される |
駐在員事務所 Representative Office | PEとしての認識はされない※ =UAEでの課税対象者として認識されない |
上記を見て頂くと、駐在員事務所の形態でUAEに進出することがメリットがあるように見えますが、駐在員事務所では営業活動ができない(詳細にはマーケティングと広報活動のみ可)など、ビジネスを遂行するにおいては多くの制限を有することになります。
また、UAE政府はこれまでこの駐在員事務所の活動について、調査や指摘を行ってきませんでしたが、法人税の導入と同時にPEの定義を発表しており、今後は規制が厳しくなることが想定されます。
そのため、今後、PEへの対応としては、特に駐在員事務所を有する企業は、実際のビジネス活動と駐在員事務所の定義を精緻に照らし合わせ、「本当にPEリスクがないのか」という視点で自社をアセスメントする必要があります。
もし駐在員事務所であるにもかかわらず、営業会議を開催(資料を保管)していたり、と価格交渉を行っている場合は、後年実施されるであろう税務調査にてPEリスクが非常に高まりますので、ご留意ください。
第3章: UAEにおける移転価格税制への対応
次にUAEに所在する子会社または支店が、日本を含む海外の関連会社と取引を行っている場合や各種人員を派遣している場合は、移転価格税制に留意する必要があります。
そもそも移転価格とは、
同一企業グループ内の国際取引における取引価格であり、有形資産取引・無形資産取引・役務
提供取引を問わず企業グループ内の取引価格全てを指す言葉であり、
この移転価格が独立企業間価格(独立の第三者間で行われる取引は経済合理性があると考えられることから、そこで適用される取引価格を独立企業間価格と言う)の観点から適切かどうかという評価が、グローバルでのグループ間取引では重要となります。
上記をもとに、移転価格税制は、不適切な移転価格の設定により各国の税収が歪められることを防ぐことを目的としています。
(以下、移転価格イメージとなります)
引用: 令和3年度「進出先国税制等に係る情報提供オンラインセミナー」経済産業省
では、この移転価格税制に対してはどのように対応すべきなのか、それは独立企業間価格算定方法を用いて、貴社グループ間取引が一定の基準値以内におさまっていることを確認することが有用です。
これは、主に当社などの会計関連サービスを提供する第三者を活用頂くことをお勧め致しますが、主にグローバル(OECD基準)では以下の5つの手法が規定されております。
尚、UAEの税制もOECD基準に則っていることから、現段階では以下5つの手法が認められています。
<移転価格の評価方法>
取引単位営業利益法 | 主に比較対象企業の営業利益率(売上高営業利益 率、総費用営業利益率等)と比較する方法 |
利益分割法 | 合算営業利益を分割する方法 |
原価基準法 | 売上原価に対する粗利率を比較する方法 |
再販売価格基準法 | 売上高に対する粗利率を比較する方法 |
独立価格比準法 | 価格を比較する方法 |
第4章: 移転価格に関して保持されるべき文書
移転価格は各企業により方針が異なるケースが多く、必ずしも1つの最適解がある訳ではありません。
例えば、子会社にて商品を製造して販売まで行う(親会社からは原材料を購入し、配当で還元する)ケースと、親会社が製造した商品の販売を行いながら契約金額の一部を子会社で収益認識するケースでは移転価格の範囲も考え方も異なってきます。
そのため、各企業では移転価格に関連する資料の保持が求められており、UAEでは主に以下の3つの資料が保持される必要があります。これらはUAE法人税の細かなルールに則して作成される必要がありますので、作成時は現地法人や当社などの現地コンサルタントをご活用頂くことをお勧め致します。
移転価格文書 | 内容 |
ローカルファイル |
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マスターファイル |
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国別報告書※ |
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※UAEでは2019年に先行して導入済。UAEにおける税務上の居住者である場合は作成が必須となります。
第5章: まとめ
PE(恒久的施設)および移転価格税制への対応は、法人形態の変更や文書作成など、長期間に亘るケースが多いです。多くの日系企業の場合、翌会計期間(FY24)から適用開始となるかと思いますが、これら対応は可能な限り早めに開始頂くことをお勧めしております。
また、単なる法人税対応のみで終わることは少なく、ESRとの整合性など、法的なコンプライアンスも意識しながら進める必要があるので、当社のような第三者をご活用頂くことをお勧め致します。
引き続き、日系企業のケーススタディや最新情報についてアップデート致しますので、引き続き本ブログをご参考頂ければ幸いです
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