UAE法人税の導入 - 日系企業の留意すべきポイント –
2023年6月にUAEにも法人税が導入されたことにより、当該国に所在する現地および多国籍企業が課税対象者となりました。法人税の導入以降、多くの企業が対応に迫られている一方で、法人が所属するエリアによりその対応や税率が異なるという制度の難しさにも直面していることが散見されています。
今回は、UAE法人税の概要と各エリア(メインランド・フリーゾーン)での対応方法について解説していきます。
この記事を読んだら…
- UAEと日本の法人税制の違いが分かる
- エリア(メインランド、フリーゾーン)での制度の違いが分かる
- 現地に所在する子会社や支店、駐在員事務所の対応方法が分かる
第1章: UAE法人税の適用開始時期
UAEでの法人税は2023年6月より適用開始となりました。6月から開始とは言っても、6月以降に開始される会計年度より適用が開始されるということですので、急に税務申告等が発生することはありませんのでご安心ください。
例えば、12月決算の企業であれば”2024年1月ー2024年12月”、そして、3月決算の企業であれば”2024年4月ー2025年3月”が対象年度となります。
また、法人税に関する課税者登録および初年度の税務申告は対象年度終了後、9カ月後が期日となっていますので、以下を参考にしてください。
<対象年度および申告期日>
決算月 | 初回 対象年度 | 初回 登録・税務申告(期日) |
12月 | 2024年1月 ー 2024年12月 | 2025年9月30日 |
3月 | 2024年4月 ー 2025年3月 | 2025年12月31日 |
<例:12月決算企業のスケジュールイメージ>
(引用:federal Tax Authority, UAE)
第2章: 課税対象者と免除者
UAEでは、居住者および非居住者ともに課税対象者となりますが、詳細は下記のように定義されております。原則は、特定業種を除き、殆どの法人や個人事業主が対象になると考えてください。
課税対象者
①居住者
-UAEで設立された法人
-国外で設立され、UAEで実質的に支配・管理されている法人
-UAE国内で事業または事業活動を行う自然人
-その他政府により定められている者
②非居住者
-UAEにおいて恒久的施設(PE)を有する者
※日本企業の場合、特に重要なポイント! 別記事にて解説します
-UAEを源泉とする所得を得ている者
-UAEと繋がりを有する者(未発表)
免除者
-政府系企業(子会社など支配下にある傘下企業含む)
-石油関連の採掘事業を有する企業(別途政府よりライセンスを付与されている者)
-非採掘であるが天然資源ビジネスに従事している企業(〃)
-適格公益企業(宗教や慈善事業など特定の目的のためだけに設立)
-適格投資ファンド(そのた年金ファンド等含む)
-その他閣議決定された者
第3章: 所得税率
課税対象者には、0%または9%が適用されますが、これは年間での所得額および法人が所在するエリアにより異なります。各条件ごとに適用される税率について後述致します。
第4章: メインランドとフリーゾーン
メインランド企業とフリーゾーン企業の場合により、適用される法人税率は以下のように異なります。
※ここでは各エリアの概要説明は割愛します
メインランド
メインランド企業では、特定業種でない限りは課税対象者として認識され、年間での課税所得額(会計上での売上・最終利益ではない点にご留意ください)により法人税率が決まります。その課税の基準値にあたるのがAED375,000(約1,500万円)であり、この金額を超えるかどうかで適用税率が変わります。
税率 | 条件 |
0% | 年間での課税所得額がAED 375,000(約USD 100,000)以下の場合 |
9% | 年間での課税所得額がAED 375,000(約USD 100,000)超の場合 |
フリーゾーン
フリーゾーン企業では、2つの条件をもとに適用税率が異なるため、以下の条件に照らし合わせながら税務申告を行う必要があります。下記参照頂ければと思いますが、かなり複雑な条件なので、フリーゾーン企業の場合は当社のアセスメントをご利用頂ければと思います。
特に、【適格フリーゾーン企業】と【適格所得】と【適格活動】は異なる概念ですので、留意が必要です。
条件①適格フリーゾーン企業(Qualified Free Zone Person)の認定
【適格フリーゾーン企業】とは、フリーゾーンに属する企業すべてが認定されるわけではなく、下記要件を全て満たす企業のことを言います。また、この【適格フリーゾーン企業】に認定されると、適用税率0%が適用される権利を得ることができます(必ず0%が適応される訳ではないこと、ご留意ください)。
【適格フリーゾーン企業(Qualified Free Zone Person)の認定要件】
- 十分な経済実体性を有する(ペーパーカンパニー等でない)
- 適格所得を得ている(下記条件②で説明)
- 自ら一般税率(9%)を選択していない
- 移転価格税制に準拠し、且つ必要となる移転価格文書を保持している
- その他政府発表に準拠している
上記要件を満たさない場合は、メインランド企業と同じ取り扱いとなり、年間の課税所得をベースに適用税率が決定されます。
上記要件を満たせば、【適格フリーゾーン企業】に認定されますが、ここから各取引の性質に基づき非課税所得(適格所得)または課税所得(非適格所得)かを分類する必要があります。
条件②適格所得の認識
適格フリーゾーンが行う取引の内、適格所得として認識される取引には0%の法人税が適用されます。
適格所得
- 他のフリーゾーン企業との取引から発生する所得
フリーゾーン間での取引は原則適格所得として認識されます。
※但し、除外活動や一部フリーゾーン取引を除く
- フリーゾーン企業以外との取引の内、適格活動から発生する所得
フリーゾーン企業以外との取引でも適格活動と認定されれば、その活動から発生する所得は適格所得として認識されます。一方で、除外活動に認定されれば、その活動から発生する所得は非適格所得となり9%の課税対象となります。
適格活動
-製品や資材等の製造および加工
-株式やその他証券の保有
-船舶の保有・管理・運営
-監督官庁に認定された再保険事業
-監督官庁に認定されたファンド活動(資産や投資管理サービス含む)
-関連当事者に向けた本社サービス
-関連当事者に向けた資金・財務サービス
-上記に付随するサービス
-航空機のリース
-指定区域内あるいは指定地域から顧客への製品・資材販売
(指定区域についてはVATルールを参照する必要有除外活動
-個人との取引
-監督官庁に認定されている銀行サービス
-監督官庁に認定されている保険サービス
-監督官庁に認定されている財務・リースサービス
-不動産の所有、開発
-知的財産権の所有、開発
-上記に付随するサービス - 僅少値以下の取引
(適格所得以外の)非適格所得が年間課税所得額の5%またはAED 5 million低い方より、更に下回っている必要があります。
もし、当該基準値を超過した場合は全てのフリーゾーンの恩恵(法人税0%)を失うことになるため留意が必要です。
この2つの条件を無事クリアすれば、ようやく法人税の0%というフリーゾーンでの優遇を得られることができます。
第5章: まとめ
上述の通り、フリーゾーンにおける優遇税率取得のための条件はかなり複雑であり、対応は大変ですが、(ビジネス形態を大きく変更しない限りは)初年度対応を正確に行っておけば法人税に関する税務リスクは大きく低減できるかと思います。
一方で、初年度対応を誤ってしまった場合は、数年後から開始されるであろう国税調査にて相応の罰則・罰金が発生する可能性が高まってしまいます。
そのため、初年度の税務申告は当社などの第三社を活用いただくことをお勧め致します。
また、次回は特にグローバル企業が留意すべき恒久的施設(PE)の取り扱いや移転価格税制への対応について解説致します。
ご興味の方は、ぜひお気軽にご連絡ください。