UAEの会計とは? – UAE会計の概要と進め方 –

会計は企業運営の基本です。ビジネスの指標、納税などのコンプライアンス、ステークホルダーへの財務諸表の提示など、ビジネスにとって会計はとても重要なパートを担っています。

国が違えば、会計制度も違います。UAEでは年々会計の透明性が求められるようになっています。UAEは国の急成長に伴い、制度から手続きの方法までダイナミックに変わっていくため、常に最新の情報に留意することが大事です。今回はUAEの会計の概要を説明していきます。

この記事を読んだら…

  • UAEで行うべき会計の全体像が分かる
  • UAEの税制の概要が分かる
  • UAEでの会計の進め方の道筋が見える

第1章: UAEの会計の概要

アラブ首長国連邦は、7つの首長国の連邦であり、石油輸出から観光、不動産から金融サービスまで、多岐にわたる経済ポートフォリオを持っています。

UAEで最も汎用的に使用されている会計基準はIFRS(International Financial Reporting Standards / 国際財務報告基準)で、IFRSに従っていない財務諸表はステークホルダーにとって正しいものと見なされず、銀行や政府より受け入れらないなどの可能性があります。UAEでは、VAT(付加価値税)は、商品やサービスの消費または使用に対して課される税金である。

UAEではVAT(Value Added Tax / 付加価値税)が2018年から、また法人税が2023年6月から導入され、FTA(Federal Tax Authority / 連邦税務局)により管轄されています。一定の要件を満たした企業または個人は、ルールに従ってFTAにVAT登録や法人税登録を行い、定期的に申告・納税を行う必要があります。登録が遅れたり、申告を怠った場合、罰金等の罰則が課されます。現状、UAEでは従業員の社会保険料の定期納付や、個人所得への課税はありません。

記帳に関しては、VATなどUAEの税制に則った会計ソフトを使用して行うのが一般的です。日本のクラウド会計ソフトで代用可能かと聞かれることも多いのですが、基本的に当地の会計に即した機能が付いているソフトを利用することを推奨しています。クラウドでサブスクのソフトがUAEでも多く利用されています。

会計監査は会社業態や設立場所により、必須でない場合もありますが、状況により急に提出を求められる可能性もありますので、受けておかれることを推奨しています。

それでは、ひとつずつ見ていきます。

第2章: UAEの帳簿付けとは?

会計基準IFRSとは?

UAEでは、IFRS(国際財務報告基準 / International Financial Reporting Standards)に従って会計を行うのが一般的です。IFRSは、IASB(国際会計基準審議会 / International Accounting Standards Board)によって定められた会計基準で、国際的に企業や投資家に理解され通用する会計基準です。

IFRSでは日本の会計基準に似ている部分も多く、馴染みやすいものではありますが、日本の会計が細かくルールが定められているのに比べ、IFRSは取引や出来事の実質に焦点を当てた原則ベースの枠組みを示す側面が強く、例えば資産の減価償却年数を自社判断で決定するなど、自社の判断基準により会計処理を決定する場面が出てきます。UAEではIFRSに準拠しない財務諸表は、監査の際、監査人から監査を拒否される場合もあります。

【IFRSにおける代表的な財務諸表】

・貸借対照表
・損益計算書
・キャッシュフロー計算書
・株主資本計算書

帳簿は必ずつけないといけない?

UAEの会社法では、UAEの全ての企業は会計年度末から5年間、会計記録を保持すること、また、全ての株式会社(joint stock or limited liability company)は毎年監査を行うために1名以上の監査人を置き、それ以外の種類の会社には監査役の選任が法律で義務付けられている。企業は国際会計基準を使用し、貸借対照表および損益勘定を含む年次財務諸表を準備して会社の損益を正確に示さなければなりません。

また、ドバイメインランド企業の定款では、企業は貸借対照表と損益計算書、事業活動とその財務状況について年間報告書を作成し、利益分配案を株主へ提出することが定められており、貸借対照表と損益計算書は株主承認のために株主へ提出しなければなりません。実際に配当を行う場合、この年間報告書をもとに計算され、支払われるべきものとなります。

実際は、外国人投資家を誘致するための特別な規制や優遇措置を設けているフリーゾーンでは、独自の規制である程度の自治権を持って運営されており、必ずしも会計監査書類の提出が必須でなくとも、どこのフリーゾーンでも会計記帳は求められていることが一般的です。

ビジネスをするにあたって、VATなど税制の遵守、財務の透明性の観点、またビジネスの状況を適切に判断するためには、正確な記帳は欠かせません。財務状況を把握していなければ、VATの要件に達したことに気づかず登録遅延になる可能性もありますし、事業を進める上で、政府や銀行から急に監査や財務記録の提出を求められる、UAEの制度が変わるなど、色々な場面が想定できます。いざ必要となった際に、速やかに対応できる準備をしておくことは大切です。適切な財務記録を保持していない企業に対しては、罰金や法的措置が取られるリスクがあります。

【財務諸表が求められる例】

・地域・業種によっては、会社のライセンス更新時に財務諸表の提出が義務付けられているところもある(一部のフリーゾーンなど)。
・VATや法人税の登録要件の判断
・銀行の借入
・会社の清算
・株主からの財務諸表の提出要求

インボイスやレシートの証憑管理は?

会計上の裏付けとなる書類を管理することは、特に規制遵守が重視されるUAEにおいては極めて重要です。政府当局から提出を求められた場合は、速やかに提出する必要があるため、日頃から管理をしておくことが大切です。

会計記録の保存期間は、商業会社に関する2015年連邦法(2)により、企業は会計記録を最低5年間保存することが義務付けられています。※機械等の資産は10年、不動産は15年など例外あり。

【保管すべき書類の種類】

・購入・販売のインボイス
・銀行取引明細書
・領収書: 運営費と資本金の両方のすべての経費
・契約書と合意書: リース契約、サプライヤー契約、サービス契約など
・給与記録: 給与明細、賞与、その他従業員関連経費を含む
・輸出入書類
・VAT記録: VAT登録をしている場合は、タックス・インボイス、タックス・クレジット・ノート、税務申告、その他の関連書類など、すべてのVAT関連書類

基本的にはデジタルデータでOKです。
また、VAT申告には、規定に基づいたインボイスやクレジットノートの書式を守ることが重要です。

※Credit Note(クレジットノート):商品の返品やインボイスの間違い等で、請求金額を減額する際に発行する書類。

第3章: UAEの会計ソフトウェアは?

2018年のVATの導入に伴い、VATの計算、申告、届出を処理できる会計ソフトウェアが一般的に使用されています。また、FTA(Federal Tax Authority / 連邦税務局)から認可されたソフトウェアもあります。

【会計ソフトウェアの例】

・Zoho Books
・oDoo
・QuickBooks

クラウドで、利用できるアカウント数やサービス内容により、サブスク金額が変わってくるタイプのソフトウェアがよく利用されており、比較的低予算から利用できます。自社の規模や事業内容からサービスを選ぶとよいでしょう。

また、使いやすさも大切です。お試し期間が付いているものが多いので、直感的に使えるかなどを確かめましょう。インボイス形式のカスタマイズ、インボイスを客先へ直接送付、インボイスに決済リンクを付けるなど様々な機能も付いています。大企業向けにはCRM、ERP、eコマース・プラットフォーム、決済ゲートウェイなど、他のビジネス・ソフトウェアとの統合機能を提供するソフトウェアもあります。

ソフトウェア代理店経由で購入する場合、代理店が色々説明をしてくれますが、代理店のサービスレベルも多種多様なので気を付けましょう。導入時のトレーニングや、有料で勘定科目導入などの代行サービスもあり、導入時には購入業者に尋ねてみるとよいでしょう。日本のようにきめ細やかなサービスは期待できないので、質問事項はまとめてはっきり聞きましょう。

日本の会計ソフトはUAEの税制に即していないので、お勧めはできません。

第4章: UAEの監査は?

監査の要否

原則として、UAE で活動する企業は、独立した認可を受けた監査法人による財務諸表の監査を受けることが義務付けられています。ただ、会社が所属するエリアや企業形態により、監査報告書の提出は義務付けられていない場合もあります。

フリーゾーン企業に監査が義務付けられているかどうかは、各フリーゾーンの規定によりますが、一般的な傾向として、多くのフリーゾーンでは企業に年次監査を義務付けており、各当局が指定する期限内に監査済みの財務諸表が要求されることがあります。UAE国内ビジネスを主眼に置いていない事業者は、メイダンフリーゾーン(Meydan) や ドバイ シリコン オアシス (DSO)など、現状は監査を義務付けていないフリーゾーンに会社設立される場合もあります。

ただ、義務ではないにせよ、定期的な監査を実施することで企業の信頼性を確立し、変化が激しいUAEの規制に対応するためにも、適切な財務諸表を作成し監査を受けておくことが賢明です。

監査手続き

監査人は会社に利害関係の無い第三者機関へ依頼します。監査人へは会計ソフトから発行した財務諸表(トライアルバランス等)や銀行取引明細書を提出します。

監査人の要求に従い、追加の書類や内容の説明を行い、最終的に監査人がAudit report(監査報告書)にまとめます。ローカルの小さな監査機関の場合、アラビア語でしか作成されない場合もあるので、事前に確認しましょう。

第5章: UAEのVATとは?

VATは日本でいう消費税のようなもので、一部の特定の商品やサービスを除き、ほとんどの商品やサービスの消費または使用に対して課される間接税で、UAEでは2018年1月1日から導入されました。企業は顧客から徴収した VAT を政府に支払いますが、同様にサプライヤーに支払った税金について政府から払い戻しを受けることができるため、実際はその差額分を、申告時に政府へ支払いします。

VAT登録

VAT登録は、メインランド・フリーゾーンに関わらず、一定の売上要件に達すると登録が必須です。登録遅延には現在10,000AEDの罰金が課されます。

  • 任意登録:過去12ヶ月間の売上がAED 187,500を超えるか、今後30日以内に上記の任意基準を超える見込みがある場合、VAT登録を選択することができます。
  • 必須登録:過去12ヶ月間の売上が375,000AEDに達した場合、または今後30日以内に上記の必須基準を超える見込みの場合、VAT登録が義務付けられています。

VATの課税方法と税率

UAEのVAT税率は以下に分類されます。
・ 標準税率:5%
・ゼロ税率品:0%
・免税品:免除

標準税率はサービスや製品の消費地基準で課税されます。基本的には、UAEで消費される
モノやサービスは5%課税する必要があります。

ゼロ税率品は、国外に出荷したり、国外で使われるサービスで、旅客や国際輸送関係、教育サービス、ヘルスケアサービスなどがあります。

免税品は、生命保険、住宅建物、土地、地方旅客輸送があります。

UAEに居住する企業や人に提供するサービスは、5%が課税されます。日本に居住する企業や人に提供するサービスは、0%となります。

VATの計算

提供した商品/サービスに対し客先へ請求したVAT・・・①
仕入や経費で支払いしたVAT・・・②

①-②の差額を政府へ支払いします。

VATの申告

VATの登録が完了すると、VAT登録証明書を取得できます。その書類に指定のある申告期間毎に、VAT申告をしていきます。VAT期間は一般的には、3ヶ月ごととなっており、申告期間の翌月に申告を行います。

納税が0AEDであっても、その旨の申告が必要となります。申告遅延や申告漏れ、申告書の誤りなどに対して、多額の罰金や罰則が課されることがあります。

納付するVATより払い戻されるVATの方が多い場合、企業はVATの還付請求することができます。ただし、還付の承認にはFTAの厳しい検査があります。

VAT のインボイス(タックスインボイス)

UAEでは、VATの登録事業者は、FTAが規定する特定の書式でタックス・インボイスを発行しなければなりません。逆にVAT未登録の事業者は、タックス・インボイスを作成することはできません。

タックスインボイスは、商品またはサービスの供給と、これらの供給に対して課されたVATの証拠となるため、非常に重要です。逆に、発注に対して受領するサプライヤーのインボイスも同様の書式が守られるように注意しましょう。これらのインボイスが証憑として認められない場合、VAT申告時やFTAによる監査時に、罰則や複雑な問題を引き起こす可能性があります。購入した商品に対するVATは、VAT申告においてインプットVATとして請求することもできません。

【記載すべき内容】

  • TAX INVOICE というタイトル
  • サプライヤーの氏名、住所、TRN
  • 受領者の氏名、住所、TRN: 受領者がVAT登録者である場合は、その氏名、住所、TRNも記載
  • 請求書番号
  • タックスインボイスの発行日
  • 商品またはサービスの説明
  • 単価、 数量、税率
  • 値引き額
  • VATを含んだ支払総額(AED)
  • AEDでの税額

第5章: UAEの法人税(Corporate TAX)とは?

2023年6月以降に開始される会計年度から、法人税の対象となります。ここでは簡単な概要をご説明します。

法人税登録

2023年6月以降に開始される、会計年度末の9ヶ月以内に法人税登録が必要です。
例えば、会計年度が1月~12月の企業の場合、2024年1月から12月が会計年度となり、2025年9月末までに法人税登録が必要です。

法人税の税率と対象企業等

税率は、以下となっています。

  • 税引前純利益がAED375,000未満の場合は0%。
  • 税引前純利益が375,000AEDを超える場合は9%。(但し、375,000AED未満に関しては0%)

フリーゾーン企業に関しての法人税は0%と言われておりましたが、海外からの売上の取扱に対する発表が曖昧なため、法人税対象となる可能性があります。適正アクティビティーや適正フリーゾーンの場合は、法人税対象外となることが可能です。それ以外の場合、会計監査書類の提出が求められます(その対象年度でなく、設立後以降の書類を作成する必要があります)。法人税申告を行う場合、会計監査書類は求められないものの、しっかりとした法人税申告書に添付できる、損益計算書やバランスシート、法人税計算書の書類が求められます。詳細の法人税申告や免税事業者登録の随時政府側からのアップデートが見込まれています。このあたりは、別途アップデートします。

法人税の申告

会計年度末の9ヶ月以内に申告が必要です。申告方法は、会計監査書類と別で法人税計算書類を会計士が作成し、それらの書類を提出することとなります。基本的には、会計監査をせずに、法人税申告をやってくれる会計士がいるかと言われると、一般的には難しいのではないかと思います。

第6章: UAEの会計年度とは?

UAEでは、会社法をもとにした定款のルールで会計年度を定めることになっています。英語では、会計年度の最終日を Financial Year End Date といいます。

初年度は、設立日から6ヶ月~18ヶ月で設定が可能で、二年目以降はその会計年度末から1年毎となります。UAEでは、1月始まり~12月終わりが一般的です。

【会計年度の設定方法の例】

設立日が2023年3月16日の場合、選択例としては以下の候補があります。

  • 2023.3.16 ~ 2023.12.31: 1月~12月。UAEで一般的な会計年度
  • 2023.3 .16 ~ 2024.3.31: 4月~3月。日本で一般的な会計年度
  • 2023.3.16 ~ 2023.9.30: 10月~9月。設立日を基準とし、初年度を最短の6ヶ月で設定
  • 2023.3.16 ~ 2024.3.31: 4月~3月。設立日を基準とし、初年度を最長の18か月で設定

UAE会計のまとめ

UAEの会計を見てきましたが、UAEでは税制面では主にVATと法人税のみではあるものの、会社ライセンスの更新に会計監査が必要であったりと、色々な場面で財務書類を求められます。

また、UAEでは国の成長や税制の変化に伴い、財務の透明性が非常に求められるようになっており、規制の変化もダイナミックです。罰則や罰金を避けるためにも、日頃からの準備が大切です。

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